ウォーターPPPは「水道民営化」への道
ウォーターPPPは「水道民営化」への道
全国の自治体が今「水道民営化」に進みつつあることをご存じだろうか。
「ウォーターPPPを導入しないと、下水管改築の補助金がもらえない」仕組みを、国が作ったことで、全国の自治体が一斉に、導入・検討し始めた。財政難の自治体にとって、事実上「ウォーターPPP」導入の強制だ。
■「10年後の水道民営化」が目的
「ウォーターPPP」とは、上・工・下水道事業を「コンセッション*に段階的に移行するため」の官民連携方式だ。つまり、計画通り移行されれば10年後、ぞくぞくと全国の自治体でコンセッション方式の「水道民営化」が始まることになる。
*民営化の手法の一つ。水道民営化で主流の手法がコンセッション
自治体が検討する建付けにはなっているものの、多くの自治体にとっては実質的に選択の余地がない。補助金を活用した「ウォーターPPP」の押し付け、強制になっているのだ。
政府は2018年水道法改正で水道民営化を可能にしたものの、水道事業を民営化したのは宮城県1件しかなかった。強行採決で水道法を改正しても、地域が選択しなかった「コンセッション」を、政府は補助金を餌(脅し)に、水道民営化を押し進めている、ということになる。
また、よく言われるのが「完全民営化ではないから、コンセッションは民営化ではない」という詭弁だ。世界で完全民営化しているのはイングランドくらいなもので、水道民営化と言われる多くが、PFIであり、コンセッション方式だ。
■「水道民営化に成功」と言われた英国は経営破綻寸前
2018年水道法改正当時、政府が「水道民営化に成功」としていたイングランドの水道(テムズウォーター社)は今、経営危機に陥っている。
そもそも英国では、改正前の2018年1月に民営化を請け負う英国第2位の建設会社(カリリオン社)が破綻、英国会計検査院・ヨーロッパ会計監査院から「多くの民営化は通常の公共入札より割高」等の報告を受け、同年10月、世界に先んじて公共サービスを民営化してきた英国が民営化(PFI*)の新たな契約をしないと発表した。
にもかかわらず同年12月、水道法改正を強行可決(自・公・維が賛成)したのだ。
*PFI:民営化の手法。
テムズウォーター社の経営危機が報じられ始めたのは、法改正から5年も満たない2023/6月ごろだ。2024/4月にはテムズウォーターの親会社が債務不履行を宣言、2025/8月には英国政府は、破綻処理手続きである特別管理制度(SAR)下に置く可能性を念頭にFTIコンサルティングと助言契約を交わし、現在進行形で破綻に向かう真っ最中だ。
自ら成功と謳ったイングランドの水道が破綻に向かう、このタイミングで、日本政府は補助金を盾に取り、日本の自治体に対し水道民営化を推し進めているのだ。
■もっと詳しく「ウォーターPPP」
2022年から始まったPPP/PFI推進アクションプランは「30年間続いたコストカット経済から脱却し、社会的課題の解決と成長型経済をけん引する手段として、PPP/PFIを更に積極的に推進していく必要」があるとしている。重点分野として13分野があげられ、そのうちの3つが水道・下水道・工業用水で「ウォーターPPP」として進めている。政府は2032年度までに、水道100件、下水道100件、工業用水25件の「ウォーターPPP」の具体化を目指し、各種補助金をつけて誘導している。
「ウォーターPPP」は、レベル4の「コンセッション」とレベル3.5「管理・更新一体マネジメント方式」の総称だ。レベル3.5と4の大きな違いは「公共施設等運営権設置」「料金の直接収受」の有無だけで、中身はほぼコンセッションと同じだ。

【出典】内閣府HP ウォーターPPPの概要
■10年後、元に戻せるのか
どの自治体も「職員の高齢化」「技術継承」を課題として挙げ、待ったなしの状況だ。
水道職員の平均年齢は50歳前後。10年間「レベル3.5」で民間企業主体の運営に慣れ、水道を知る職員がぞくぞくと退職した10年後、元に戻すことなどできるだろうか。
今でも「職員の高齢化」「技術継承」が全国共通の課題であるのに、職員を増やすのではなく、民間にゆだねるウォーターPPPは課題解決に逆行していると言わざるを得ない。
元に戻す実力があったとしても、今の政権が続く限り10年後には補助金をダシに、次はコンセッションを自治体に迫るだろう。レベル3.5の中身はほぼ、コンセッションと同じなのだ。10年で慣れ切った自治体の多くは受け入れざるを得ないと判断するのではないか。
■国費支援
八潮市の道路陥没事故で表面化した下水管の改築は、国として喫緊の課題だ。そして下水道は、水道よりも建設投資額がかかる。また下水道の建設投資の財源は、企業債や補助金(国・県)が大きなウェイトを占める。自治体だけで下水管改築をやり遂げるのは非常に困難なのだ。


ウォーターPPP導入に関して、政府はこれまで導入検討費の補助(2023年~)、コンセッション方式内やウォーターPPP内の改築等整備費用(2024年~)を国費支援してきた。
そんな中、2027年からは下水管(汚水管)の改築の国費支援に関し、「ウォーターPPP導入決定済み」であることを要件化するとしている。
つまり、自治体が下水管を改築するには国の補助金が必要なのに、ウォーターPPPを導入せねばもらえず、改築できない、ということになる。実質的な「強制」と批判する理由だ。
■なぜ水道を民営化してはダメなのか
民営化には「経営の効率化とコスト削減」「自治体の財政負担の軽減」「迅速な意思決定」などのメリットがあると言われてきた。コンセッションはPFIの手法の一つだが、英国会計検査院は「多くのPFIは、通常の公共入札より40%割高」「25年経験したが、公的財政に恩恵をもたらすというデータは不足」と報告している。また企業が倒産した場合、自治体が負債を負担するなど、事業継続のための後始末をすることになる。また「迅速な意思決定」についても、発注側の自治体の意思と、資金調達など企業側の都合を、契約等ですり合わせが必要となるなど、逆に時間がかかる場合も多く、疑問符が付く。
そもそも水道を民営化するということは、企業は水を商品として売上をあげ、利益を上げる必要がある。売上を上げるには①水を大量に消費②水道料金を上げる、の二つしか方法はないが、いずれも市民にとって好ましいことではない。
営利目的に活動するのが企業であり、慈善事業ではない。売上が上がらなくとも企業は利益を出さねばならず、そのためにはコスト削減が必須となる。そこで、維持・管理運営費や建設費をコスト扱いし、下げることになる。こちらも市民のためにならない。

出典:PPP/PFI手法選択ガイドライン(パワーポイント版)_第3章
参考までに、テムズ・ウォーターの経営危機が顕在化したのは「排水により水質を汚染させた」として、英水道規制当局から1億2300万ポンド(1億6600万ドル)の罰金を科せられたからだ。必要な投資を怠ったために、老朽化で水漏れは当たり前、テムズ川は汚水放流で大腸菌だらけになってしまったのだ。
2023年PPP/PFI推進アクションプラン改訂版決定当時、岸田総理は「インフラの維持整備、住民サービスの向上と地域の社会課題を官民連携で解決するとともに、民間事業者の利益創出機会の拡大を図っていく観点からPPP/PFIが極めて有効」と発言している。

「民間事業者の利益創出機会の拡大」のために、全国の自治体が「水道民営化への道」に進んでもよいのか。今まさに私たちは岐路に立っている。下水管の改築の補助金にウォーターPPP導入の要件化を許してよいのか。これは、この数年の間に全国でウォーターPPPが進むかどうかの重要なポイントだ。■
■以下参考資料
概要
上下水道分野のウォーターPPP推進について
ガイドライン第2版 基礎編(テキスト)
国交省
PPP/PFI手法選択ガイドライン(パワーポイント版)_第3章
基礎編パワーポイント
民間事業者の利益創出機会を拡大
「本日、PPP/PFIについて新たなアクションプランを決定いたしました。・・このようにインフラの維持整備、住民サービスの向上と地域の社会課題を官民連携で解決するとともに、民間事業者の利益創出機会の拡大を図っていく観点からPPP/PFIが極めて有効です。このため、次の4点に重点をおいて、目標件数を引き上げて取組を強力に推進してください。
下水道分野における官民連携事業の各都道府県での実施状況(官民連携見える化マップ)
【令和7年4月時点】
【Yahoo記事】水道民営化法案審議直前に英国PFI終了宣言
【東洋経済オンライン】お粗末なロンドンの水道が示す「民営化」の末路
老朽化で水漏れに汚水放流、再国有化に支持
【日経新聞】小さな政府サッチャリズム、英国が転換へ 「大悪臭」水道に国が介入
【Yahoo記事】大腸菌だらけのテムズ川 ボート部員は腹痛や嘔吐を訴え 破綻した英国の水道民営化




