食料安全保障に関するG7首脳コミュニケなどに対する農民・市民社会組織からの声明を発表
先週閉幕したG7では食料安全保障も一つの大きな課題として議論されました。
しかしその内容は密室で協議され、新自由主義的な自由貿易主義が貫かれているため、農民・市民社会組織で声明を以下のように発出しましたのでお知らせさせていただきます。
「G7 首脳コミュニケ(食料安全保障部分)」および
「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」
に対する農民・市民社会組織からの声明
2023 年 5 月 21 日
食料や世界の課題を議論した先進7カ国首脳会議が 2023 年 5 月(19 日~21 日)に広島
市で開催された。岸田文雄首相は会議の最終日、議長国として平和記念公園で記者会見を
開き、「食料危機は人々の暮らしに関わる喫緊の課題」と述べた。
G7 広島サミットでは、「G7 広島首脳コミュニケ(以下、首脳コミュニケ)」の 31-32段落で食料安全保障が明記された。また「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明(以下、行動声明)」が G7 の招待国・地域であるオーストラリア、ブラジル、コモロ、クック諸島、インド、インドネシア、大韓民国、ベトナム、EU らと共同で出された。
首脳コミュニケと行動声明では、これまでの G7 の食料安全保障政策について世界の農業者・市民社会から懸念してきた次のような問題が繰り返されており、世界の農業・農村に影響が及ぶことが想定される。そのためここに声明を発出する。
声明では、まず各項目の背景を簡単に説明し、その後に項目毎の課題について述べる。
1,新自由主義的な農産物貿易・農業開発と飢餓・貧困対策の矛盾
首脳コミュニケと行動声明では、世界の飢餓と貧困の原因として批判されてきた新自由主義的な農産物貿易の堅持が繰り返され明らかな矛盾がみられた。そこでは、農民・市民社会から解体と改革を求められてきた世界貿易機関(以下、WTO)を中心とした貿易の堅持が繰り返され、中でも行動声明では、昨年の G7 で出された 2022 年「世界の食料安全保障に関する G7 声明(以下、2022 年声明)」にはなかった WTO の言及が繰り返し行わ
れた。
(2022 年声明(上図)と 2023 年の行動声明(下図)を簡易なテキストマイニング分析(AIテキストマ
イニング・ユーザーローカル利用)した結果、2023 年の行動声明では 2022 年声明になかった WTO が繰
り返し(12 回)使用され自由貿易主義をさらに追求していることが明らかになった)
2,大国主導の食料安全保障策、密室協議の問題、トップダウンの限界
G7 食料安全保障政策は、後述のように G7 食料安全保障作業部会が非公開で決定している。毎年議長国が担当し今年は日本の外務省が会議を数回開催しとりまとめを行った。日本の農民・市民社会組織から参加を要請したが、声明完成までは困難と拒否された。
3、食料主権に基づいた食農政策と持続可能な農業・アグロエコロジーへの抜本的な転換
日本政府は、首脳コミュニケに「持続可能な生産性向上」の文言と視点を盛り込み、4月の農相会合とともに日本からの成果とし、今後は20カ国・地域(G20)農相会合での議論でも積極的に提案するとしている。
しかしその内容は民間や企業主導であり、農民・市民社会組織が求めてきた方向性とは異なる。中でも農民・市民社会組織が国際政策において採用を求めてきたアグロエコロジーという文言が行動声明では使用され、一定の成果と考えるが、文言の使用のされ方と考え方には重大な違いがあり以下に指摘する。
以下、行動計画の問題点を整理し、その背景について説明する。
1,新自由主義的な農産物貿易・農業開発と飢餓・貧困対策の矛盾
行動計画では、農産物貿易主義の堅持が表明されている。
しかし WTO(世界貿易機関)等が母食料輸出国・多国籍企業・金融界が主導する新自由主義的で投機的な農産物貿易は、各国の食料自給とその主権を侵害し、飢餓と貧困を悪化させてきた。また G7 や国際機関は、食料生産の危機を強調し、巨額の資金投入により工業的な大規模農業をトップダウンで推進してきた。
そこでは小規模農民を多国籍企業主導のグローバル市場に組み込む動きが加速する一方で、小規模農民の課題に向きあわず逆に飢餓や貧困が拡大させていることが批判されてきた。
G7 は 2015 年のG7エルマウ・サミットの G7 食料安全保障声明において「2030 年までに5億人を飢餓と栄養不良から救い出す」という大きな目標を設定し、その後に検証作業を行っているが、上述の矛盾を改革しなければ同目標や飢餓・貧困削減は不可能だ。
また食料価格が投機的に決定され、国際価格高騰を招いたと批判される中で、2022 年の「世界の食料安全保障に関する G7 首脳声明」では「食料安全保障を危険にさらす投機的な行動と闘う」という文言が入っていたものが、今回の声明では削除された。必要なのは、新自由主義を推進する WTO(世界貿易機関)を解体し、公正な農産物貿易のための新しい国際機関の創設と言える。
2,大国主導の食料安全保障策、密室協議の問題、トップダウンの限界
G7 の食料安全保障政策は、G7 食料安全保障作業部会(G7 Food Security WorkingGroup:FSWG)において基本的に非公開で議論が進められてきた。今回の計画も同 WG が主体となり年明けから数回会議が開催され取りまとめられた。
また G7 は、世界銀行らと「食料安全保障のためのグローバル・アライアンス(GAFS)」等の取り組みを進める一方で、世界食料安全保障委員会(CFS)にもグローバル・パートナシップへの参画を求めている。自らの食料への権利を柱に活動を展開してきた CFSの関係者は、取り組みを台無しにするものだと批判している。
G7 は、大国が密室で主導する政策決定の在り方を根本から見直すべきだ。
それぞれの農業者は農業現場で地域特有の様々な課題に直面しており、トップダウンでなくボトムアップで参加型の課題解決方法が必要としているからだ。
3、食料主権に基づいた持続可能な食農政策と持続可能な農業・アグロエコロジーへの抜本的な転換
声明や首脳宣言では、人間一人一人に焦点を当て、安価で安全、十分かつ栄養価の高い食料を安定的に入手できるようにすることが不可欠として、全ての人のための強靱なグローバル食料安全保障と栄養の実現も掲げられる。
そこでは女性や子どもを含む最も弱い立場の人々を支援する必要、「学校給食プログラム等の健康的な食事への国内の既存の農業資源の活用」という文言が入ったことは積極的に評価されるべきであろう。
また声明では、各国が農業資源を活用し、生産性向上や環境に配慮した持続可能な農業を推進することも提起された。問題はその推進においてトップダウンでのスマート農業を象徴とする新自由主義的イノベーション導入が目論まれている点だ。導入に高額の投資が必要なことが多いそのイノベーションの導入は、現場で様々な影響を与えかねない。
さらなる問題は、計画にアグロエコロジーという文言が入っている点だ。アグロエコロジーは、農業者がその主権を求めてボトムアップで構築してきた実践であり G7 のようなトップダウンの発想とは真逆にある考え方だ。こうした言葉の横取りに対しては徹底的に抵抗する必要がある。
もちろん世界では気候変動が各国において大きな課題となっており、その中で農業と食料システムは温室効果ガスの排出元として産業構造の転換を迫られている。
しかし重要なのは、トップダウンの新自由主義的イノベーションではなく、食料主権と農民主権に基づいた持続可能な食農政策への転換とボトムアップで参加型のアグロエコロジーへの抜本的な転換を目指す実践だ。
農業者の相互の学びの機会を増やし、農民・市民社会組織からの支援を通じ、アグロエコロジー推進を今後の食農政策の主軸に据えるべきである。
以上の論点から我々は G7 の「強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明」が新自由主義的で、密室で協議され、トップダウンであり、飢餓・貧困対策として有効でない行動声明であることを批判する。
必要なのは、食料主権に基づいた持続可能な食農政策と持続可能な農業・アグロエコロジーへの抜本的な転換と言えるだろう。
NPO 法人・AM ネット
NPO 法人アジア太平洋資料センター(PARC)
農民運動全国連合会(農民連)
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https://am-net.org/action/agrifood/G7_foodsecurity_20230523.pdf